成人の「食いしばり(ブラキシズム)」と矯正歯科治療の関係を解説:歯を守るための選択肢
こんにちは、茨城県石岡市、小美玉市、かすみがうら市、土浦市の矯正歯科医院、石岡みらい矯正歯科の丸岡です。
初診相談にお越しになる成人患者様から、かかりつけの歯科医院で「歯ぎしりや食いしばり(歯科用語ではクレンチングやブラキシズムと言います)がひどく、このままだと将来的に歯が持たないかもしれない。矯正治療で咬み合わせを直した方が良い」と勧められた、というお話を本当によくお聞きします。
「食いしばりが原因で歯並びが悪くなったのでは?」「歯並びを直せば、食いしばりはなくなるの?」といった疑問や不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
今回は、このくいしばりについて、その原因や問題点、そして矯正治療との関係性について、専門的な見地から掘り下げて解説していきます。
食いしばり(ブラキシズム)の原因
1.食いしばり(ブラキシズム)のそもそもの原因は?
食いしばりとは、睡眠中や日中に無意識のうちに、上下の歯を強く接触させたり、ギリギリとこすり合わせたりする口腔習癖のことです。
原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。患者さんが気になる「噛み合わせ」の問題も一つの要因ではありますが、近年の研究では、より全身的な要因が重要視されています。
①精神的ストレス・心理的要因
これが食いしばりの最大の原因と考えられています。仕事や人間関係などの精神的ストレス、不安、抑うつなどが、睡眠中の食いしばり(睡眠時ブラキシズム)を引き起こすことが多くの文献で示されています。
②睡眠の質(睡眠障害)
睡眠時ブラキシズムは、睡眠の覚醒反応(一瞬の目覚め)と関連しており、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの睡眠障害を持つ人に多く見られます。
③生活習慣:
喫煙や過度なアルコール摂取、カフェインの摂取なども、食いしばりを悪化させる要因として知られています。
④遺伝的要因:
家族内での発症率が高いことから、遺伝的な影響もあると考えられています。
⭐︎「噛み合わせ」の影響について⭐︎
以前は、特定の歯の接触(干渉)が食いしばりの直接的な原因とされていましたが、現在では、咬み合わせのわずかな不調和が、食いしばりを引き起こすという直接的な因果関係は否定的な見解が多くなっています。
しかし、不正咬合(悪い歯並び)によって、特定の歯に過度な負担がかかりやすくなり、食いしばりのダメージが増強されることはあります。
食いしばりが引き起こす問題点
2.食いしばりが引き起こす問題点(ダメージ)
食いしばりや歯ぎしりによって、歯や顎の関節には、食事の際の何倍もの過大な力がかかります。これにより、以下のような深刻な問題が生じる可能性があります。
①歯の摩耗(すり減り)と破折:
歯の表面のエナメル質がすり減り、その下の象牙質が露出することで知覚過敏を引き起こしたり、進行すると歯がひび割れたり、最悪の場合は、歯が割れる(歯根破折)ことがあります。特に神経の治療をした歯(失活歯)は脆く、破折のリスクが高まります。

↑ 臼歯を中心に破折のリスクがあります。破折すると歯を残せる可能性がかなり低くなります。
②歯周組織(歯を支える骨)へのダメージ:
過度な力が持続的に加わることで、歯周病が悪化しやすくなったり、歯槽骨(歯を支える骨)が破壊されたりして、歯の動揺(ぐらつき)が増し、早期の抜歯につながるリスクが高まります。
「このままだと歯が抜けてしまう」と心配されるのはこのためです。

↑ 歯周病の増悪因子とも言われています。破折すると痛みも出る場合もあります。
③顎関節症(がくかんせつしょう):
顎を動かす筋肉や顎の関節に負担がかかり、「口を開けると痛い」「顎の音が鳴る」「口が開けづらい」といった顎関節症の症状を引き起こしたり、悪化させたりします。

④詰め物・被せ物の破損:
保険診療の銀歯や、高価なセラミックなどの修復物も、強い力によって割れたり、外れたりする原因になります。
⭐︎概要について、ショート動画にもまとめてあります⭐︎
歯並び(不正咬合)を治すと食いしばりはなくなるか
3.歯並び(不正咬合)を治すと食いしばりはなくなるのか?
これは患者様にとって最も気になる点だと思います。結論から言うと、「食いしばり自体が完全になくなるわけではないが、リスクとダメージを減らす上で非常に有効な手段の一つである」というのが、専門医としての見解であり、多くの文献が示すところです。
近年の質の高い研究(システマティックレビューなど)を調査すると、以下のような知見が得られます。
・矯正治療はブラキシズムの「原因」を直接除去しない:
食いしばりの主な原因がストレスや睡眠障害である以上、歯並びや噛み合わせを整える矯正治療だけで、その根本原因(中枢性の神経活動)を止めることは難しいとされています。
・矯正治療は「ダメージ」を軽減する:
一方で、矯正治療によって理想的な噛み合わせ(機能的咬合)を獲得することは、食いしばりによる特定の歯への過度な集中荷重(負担)を防ぎ、力を多数の歯に均等に分散させる効果があります。これにより、歯の破折リスクや歯周組織へのダメージを軽減できることが示されています。
例:前歯だけで強い力が受け止められている状態(オープンバイトなど)を、奥歯も含めた全ての歯で均等に支えられるように改善する
・顎関節症の改善:
不正咬合が顎関節症の症状を悪化させている場合、適切な矯正治療によって噛み合わせを改善することで、顎の筋肉の過度な緊張が緩和され、顎関節症の症状が軽減することが報告されています。
まとめ
4.まとめ:
矯正治療は食いしばりそのものを「治す薬」ではありませんが、食いしばりという「病気」から歯や顎を守るために、極めて重要な役割を果たします。
まとめと提言:歯を守るための複合的なアプローチ
「食いしばりがあるから矯正治療を」と勧められた場合、それは「あなたの歯が将来的にダメになるリスクが高いので、今からそのリスクを減らしましょう」という意味合いが強いとご理解ください。
1. 矯正治療で噛み合わせの土台を整える:
ブラキシズムによる力を多数の歯に均等に分散させる、「ダメージに強い」理想的な噛み合わせ(安定した咬合)を目指します。歯並びを整えることは、長期的な歯の延命治療の一つです。
2. 複合的な治療を並行して行う:
矯正治療に加え、食いしばりへの直接的な対応も並行して行うべきです。
ナイトガード(マウスピース): 睡眠中の食いしばりから歯を守るための最も一般的で効果的な方法です。

↑ ナイトガードは歯を守る効果が期待できます。一方で、以下に示すTCHを引き起こす可能性もあります。
ストレス管理: 必要に応じて、リラクゼーション、運動、生活習慣の改善に取り組みます。
専門家との連携: 睡眠時ブラキシズムが疑われる場合は、睡眠専門医や内科医との連携も考慮に入れます。
3. TCH(歯列接触癖)の改善:
日中の無意識の食いしばりは、TCH(Tooth Contacting Habit:歯列接触癖)と呼ばれることがあり、これも問題です。リマインダーなどを活用し、日中は上下の歯を接触させないよう意識する行動療法も有効です。

↑ 通常、食事の時以外は、上の歯列と下の歯列は離れているのが正しい状態と言われています(安静位)
食いしばりの改善は、 矯正治療 と 行動療法・対症療法 を組み合わせた、 包括的なアプローチ が成功の鍵 となります。
ご自身の歯を長く健康に保つために、ぜひ一度、矯正歯科専門医にご相談ください。
Q & A
Q & A
Q. 矯正治療中に食いしばりが悪化することはありますか?
A.矯正治療の初期や、新しいワイヤーに交換した直後など、噛み合わせが一時的に変化するときに、食いしばりが強くなると感じる方はいます。しかし、これは一時的なものがほとんどです。
Q. 食いしばりがあると、マウスピース型矯正(インビザラインなど)はできないのでしょうか?
A. いいえ、できます。マウスピース型矯正装置は、食いしばりの際に歯を保護するナイトガードのような役割も果たすため、むしろ装置自体が食いしばりのダメージから歯を守ってくれる側面もあります。ただし、装置を強く噛みすぎて割ってしまうリスクがあるため、専門医による慎重な診断と、定期的な装置のチェックが必要です。
Q. 噛み合わせが深い(ディープバイト)のも食いしばりの原因ですか?
ディープバイト(過蓋咬合)自体が食いしばりの直接的な原因とは限りませんが、噛み合わせが深すぎると、下顎の動きが制限されやすく、奥歯や前歯に不適切な力がかかりやすい状態になります。矯正治療でディープバイトを改善し、噛み合わせの深さを適正化することは、力の分散を促し、食いしばりによるダメージリスクを減らす上で非常に重要です。
————————————————————————
当院では石岡市をはじめ、土浦市・水戸市・つくば市・小美玉市・かすみがうら市・鉾田市・笠間市など、茨城県内のさまざまな地域から患者さまにご来院いただいております。日本矯正歯科学会認定医と日本専門医機構矯正歯科専門医が在籍しています。
電車・お車ともにアクセスしやすく、県内広域からのご相談も歓迎しております。
石岡みらい矯正歯科 院長:丸岡亮(歯学博士)
茨城県石岡市国府4-5-4
TEL:0299-24-4118
最新情報は 公式Instagram、youtube でも発信中!ぜひフォローをお願い致します!
List of probably useful references
Manfredini D, Lobbezoo F. Relationship between bruxism and dental implants. Clinical aspects. J Oral Rehabil. 2010;37(12):983-93.
Molina OE, et al. Occlusal risk factors for temporomandibular disorders (TMD): a systematic review. J Oral Rehabil. 2012;39(12):917-25.
Manfredini D, et al. Sleep bruxism: an overview of the mechanisms, consequences, and management. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 2013;115(4):460-73.
Michelotti A, et al. Orthodontic treatment and TMD: a systematic review of the literature. Eur J Orthod. 2017;39(2):113-21.
Okeson JP. Management of temporomandibular disorders and occlusion. 8th ed. Mosby; 2015.
Huang H, et al. Is orthodontic treatment effective in reducing the severity of temporomandibular disorders? A systematic review. J Evid Based Dent Pract. 2018;18(3):238-51.
Bernstein H. Bruxism and malocclusion: is there a link? Compend Contin Educ Dent. 2016;37(5):350-4.
Sjögren K, et al. Changes in sleep bruxism after orthodontic treatment. Eur J Orthod. 2010;32(1):86-91.
Klasser GD, Lavigne GJ. Sleep bruxism: an overview of the dental and medical perspectives. Sleep. 2011;34(5):655-63.
Oporto V, et al. Effect of dental interventions on sleep bruxism: A systematic review. J Oral Rehabil. 2021;48(1):52-66.
Wieckiewicz M, et al. Sleep bruxism and the risk of dental complications: a critical review. J Prosthodont. 2014;23(8):659-67.
Raphael KG, et al. Sleep bruxism and the role of the trigeminal motor system. J Oral Rehabil. 2015;42(1):47-59.
Rintakoski K, et al. The effect of orthognathic surgery on temporomandibular disorders: a systematic review. Int J Oral Maxillofac Surg. 2020;49(11):1419-27.
Shetty S, et al. Bruxism: a literature review. J Indian Prosthodont Soc. 2010;10(3):141-8.
Sato T, et al. The influence of occlusal discrepancies on sleep bruxism: a pilot study using an intraoral electromyographic device. J Oral Rehabil. 2022;49(1):15-22.



